Hiroshi Kawamura Consul General of Japan in San Francisco
「Square the Circle」自分に限界を設けないこと。それが大切なことと語る川村総領事。2021年9月より在サンフランシスコ総領事館の総領事として赴任したばかりの川村博司総領事がラスベガスの秋祭りにお越しになった折の貴重なインタビュー。フランス、タイなどでのご活躍、子供のころの思い出などから、日頃から大切にされていること... ひとつひとつの質問に丁寧にお答えいただきました。穏やかな物腰の中に秘めたるパワーと実行力のある総領事という印象の川村総領事です。お楽しみください!
1964年生まれ。1986年外務省入省。これまで、外務本省では総合外交政策局総務課政策企画室長、欧州局政策課長、内閣官房副長官補室外政総括参事官、欧州局審議官等を務めた。在外では、在シンガポール大使館次席公使参事官、在英国大使館総領事兼総括公使、在フランス大使館次席公使等を務めた。在タイ大使館次席公使を務めた後、 2021 年 9 月、在サンフランシスコ日本国総領事として着任。
Consul-General Hiroshi KAWAMURA was born in 1964 and began his career at the Ministry of Foreign Affairs of Japan in 1986. Prior to assuming his duties as Consul-General of Japan in San Francisco in September 2021, he served as Deputy Chief of Mission / Minister at the Embassy of Japan in Thailand. He has held several senior positions in overseas missions, including as the Deputy Chief of Mission / Minister at the Embassy of Japan in France, Consul-General / Minister at the Embassy of Japan in the United Kingdom, and Deputy Chief of Mission / Minister Counsellor at the Embassy of Japan in Singapore. In Tokyo, his domestic assignments have included Deputy Assistant Minister of the European Affairs Bureau, Counsellor for Foreign Affairs in the Cabinet Secretariat, Director of European Policy Division in European Affairs Bureau, and Director of the Policy Planning Division in the Foreign Policy Bureau.
10月23日に行われたラスベガスの秋祭りに、新しく赴任されたばかりの川村博司サンフランシスコ総領事が参加され、秋祭りの酒パビリオン会場になったライフガードアリーナでお話を伺いました。穏やかな物腰の川村総領事は、秋祭りのオープニングのスピーチではなんと手品をご披露され場を和ませてくださいました。
▶︎サンフランシスコ総領事ご就任おめでとうございます。サンフランシスコはいかがですか?
総領事:ありがとうございます。9月初めに着任して1ヶ月程経ったところですが、大変良いところですね。気候的にとても快適ですし、街並みもきれいです。また、様々な方々が一体になって暮らしておられるダイバーシティーとハーモニーを強く感じる街で、着任して嬉しく思います。サンフラシスコは日本人にとっては非常に縁(ゆかり)のある地です。日本の最初の在外公館ができたのがサンフランシスコですし、サンフランシスコ平和条約も有名です。日本人、日系人、日系企業の方々が沢山いらっしゃいますので、私もしっかりと仕事をして参りたいと思います。
▶︎実は今回、川村総領事にインタビューをさせていただけるということで、インターネットで少し検索したところ、色々なお仕事をされてきたことが出てきました。その中で大阪万博の誘致に名乗り出た時、川村総領事がフランス語でスピーチをされて、誘致の意気込みを語っているニュース記事を見ました。たぶんフランスにいらっしゃる時のことだと思いますが、それがすごく感動的というか。2016年の映像です。その時のことを伺いたいと思います。
総領事:はい。鮮明に覚えています。非常に厳しい戦いといいますか、誘致合戦でした。ご存知かもしれませんが、最初は対抗馬がフランス、パリでした。日本はこれまでに万博を何度か開催しているのですが、パリは戦後の開催がありません。久しぶりの開催をということで彼らも気合が入っていました。それにやはりフランス語圏には強い。BIE(博覧会国際事務局)という万博の国際機関がパリにあるのですが、フランス語圏の人たちはどうしてもフランスになびいてしまうような感じでした。私自身、パリでBIEの日本政府代表を務めさせていただいていましたので、昼夜問わずフランスに負けないようにと各国の政府代表に誘致活動をしていました。その後、幸いパリが降りてくれました。ただロシアが残りまして、ロシアも手強かったのですが、東京や大阪から来ていただいた方々の働きかけもあって、最後にその時点では私は東京に戻っておりましたが大阪に決まった時は感無量でした。2025年、是非成功させてほしいと願っております。
▶︎万博の跡地にはカジノができる方向で向かっていますね。
総領事:今はコロナでなかなか大変な時期ですので、是非、大阪、ひいては日本の経済回復のために、様々なイベントが成功することを祈っています。万博もその一つですし、その後、万博の跡地、夢洲にリゾートができるのであれば、是非成功して、経済効果を上げていただけると良いなと思っています。
▶︎川村総領事は、サンフランシスコにいらっしゃる以前はタイに駐在されましたが、タイでの思い出で、何か心に残ることをお聞かせいただけますか?
総領事:ちょうど私がいました3年間というのは、タイの歴史の中でも非常に重要な3年間だったのではないかと思います。実は赴任した時のタイは軍政下でした。しかし、2019年には総選挙が行われ、民政移管となり、且つ、国王陛下の交代もありました。また、その年は10年に1回のタイミングで、タイがASEAN議長国として活動する年でもありました。新しい国王の下、民政化されたタイの政権がASEAN議長として活躍するという、タイの歴史の中でも非常に重要な時期でした。サミットには日本から総理もいらっしゃいましたし、外務大臣もいらっしゃいました。私共が準備をさせていただいて、結果的には成功に終わり、非常に貴重な経験をさせていただいたと思います。
▶︎ずいぶんいろいろなところで活躍されていらっしゃるんですね。
総領事:フランス在勤中にはマクロン大統領の新政権が誕生しました。フランスは共和党と社会党の対立が従来の形でしたが、いずれにも属さない、まったく歴史を塗り替えるような政党が出てきて、あっという間に政権をとって大統領になった。そういう時期にパリにいて、これも大変勉強になりました。また、イギリス在勤中はブレグジット(英国のEU(欧州連合)からの離脱に向けた動きがあり、且つ、スコットランドの独立投票もありました。僅差で独立は否決されましたが、あれも歴史に残る出来事でした。
▶︎すごいですね。
総領事:それぞれの国で歴史が刻まれる瞬間を間近に体験できる、それをフォローできるのは、私共、外務省に務めていることの醍醐味かなと感じます。
▶︎そうだと思います。一般の人からみるとサンフランシスコ総領事館はパスポートを発行してもらえるところ、という感覚ですが。
総領事:それは重要な任務です。
▶︎外交官になりたいと思ったのはいつですか?
総領事:父親が国家公務員で、小さな頃から、母親から「公務員になってみんなのために働きなさい。」と言われていたものですから、子供のうちから自分の中では公務員になってみんなのためになるんだ、というのができていました。
▶︎そういうふうに育てられたと。
総領事:はい。小学校の高学年になり、たまたま友達に誘われて英語の塾に通うようになりましたが、それがとても新鮮でした。まったく新しい世界。それまでは英語なんて見たことも聞いたこともなく、当時はまだ小学校で英語なんて教えない時代です。塾で英語にハマってしまいまして、一生懸命勉強するようになって。それでこれを使って公務員をやろうと思ったわけです。私は田舎の子供だったものですから、英語で公務員といったら、外務省しかないと思ってしまいました。実際はそうではなくて、他の省庁の皆さんも英語で仕事をされていますので、実は外務省に限る必要はなかったのですが(笑)。で、夢を追いかけました。
▶︎その夢を叶えるためにどういう努力されましたか?もちろん勉強をして学校に行く、ということだと思いますが。ご自身の中でどういう努力をされたんですか?
総領事:そうですね、やはり夢を諦めないといいますか。実は友達に何かの機会に喋っちゃったことがあったんですね。それでもう馬鹿にされるは……お前にできるわけないだろ!と、結構厳しく言われまして。でもまあ、正直、私は別に出来のいい子供でもなかったので、友達に言われて、もっともだな、と思うところもないわけではなかったのですが、ただ、それでも夢を諦めることはしたくなかったので。
▶︎逆に悔しいと思って。
総領事:そうですね。よし、なにくそと頑張って。やはり「夢を諦めない。」というのは大事にしてきたつもりです。
▶︎出身はどちらですか?
総領事:岐阜です。生まれは高山です。その後、白川郷、樽見、最後は岐阜市に移りました。
▶︎私も一度、高山と白河郷に行ったことがあります。素敵なところでした。
総領事:住むには大変なところですけどね(笑)。雪がものすごく降りますから。観光にはいいですが。でも、もちろん、私も大好きです。
▶︎いいところでお育ちになられたんですね。
総領事:逆に世界を知りませんでした。私が岐阜を出たのも大学へ入った時が初めてです。
▶︎子供のころ描いた外務省の仕事というのは外国で働くというイメージでしたか?
総領事:そうですね、子供のころは何がなんたるやをあまりわかっていなかったと思います。ただ、もう、英語で仕事ができる、国と国が仲良くなる、それに貢献できるかなという程度しかわかっていなかったと思います。
▶︎いや、それは、すごく大きな夢だと思います。子供のころに、例えば、かつて日本は戦争をしたとか、ニュースで今も戦争をしている国があるとか聞きますよね。そういうことを聞いて。「国と国が仲良くなれるようになるには……」ということを子供のころに考えたんでしょうか?
総領事:そうですね。ニュースで見る世界と日本の状況は全然違いますよね。人が殺されたりとかは見ませんし、そういう世界が世の中にはあるんだなと。そこで、自分で何かができればな、というのは確かに考えていました。
▶︎海外に初めて出かけられたのはいつですか?
総領事:私はすごくドメスティックな人間だったものですから、全くなくて(笑)
▶︎大学を卒業するまでですか?
総領事:いえ、外務省に入省するまでありませんでした。入省後に研修に行かせてもらえるのですが、その研修でフランスに行ったのが初めての海外体験です。フランス語は大学で第二外国語として勉強しましたが、実際には大学で数年間勉強した外国語が通じるわけでもなく、いざフランスに行きましたら、なかなか難しい。最初は田舎のほうに行って研修するのですが、現地の人からすれば、アジアのどこかの国から来た若造と見られるのでしょうが、道に迷って困っていたりすると声をかけてくれて助けてくれました。初めての外国で、フランスの人たちが結構やさしくしてくれて、本当にありがたいと思いました。
▶︎話は変わりますが、先ほどのスピーチではマジックをされましたね!いつから手品をされているんでしょうか?
総領事:私が外務省に入った当時、外務大臣が故倉成正先生でした。ある時、私は、大臣の夕食会の通訳で呼ばれまして、同席させていただいたんですが、フランス語が公用語のアフリカの国の外務大臣がいらしていました。最初、倉成大臣が挨拶をされて、その挨拶の後半にマジックを始められたんです。私、非常に驚きました。先方の外務大臣も非常に驚かれていました。しかし、拍手喝采でその場が非常に和やかな雰囲気になっていました。その後、仕事の話になったのですが、最初の段階で人間関係ができた、信頼関係ができたということで、その後の意見交換が突っ込んだ有意義なものになりました。
▶︎なるほど。
総領事:それを見て私はすごく感銘を受けまして、尊敬する人は倉成先生です。先生自身もその時に限らず、いろいろな機会に外交の中にマジックを取り入れられて、そこから人間関係を構築するきっかけを作っておられました。私も、良好な人間関係、信頼関係の上に、国と国との良好な関係も成り立っていくものと思っていますので、それを教えていただいた倉成先生には本当に敬意を表しています。以来、私自身も倉成先生ほどではないですが、手品を色々な機会に使っております(笑)。
▶︎今日のマジック楽しかったです!ほんとに場が和みました。
総領事:(笑)ありがとうございます。
▶︎ヨーロッパとアジアの国々でお仕事をされてきた後、今回はサンフランシスコ総領事館に赴任され、どのような目標を抱かれていらしたのか、また、その管轄であるラスベガスについて、どのようにお考えですか?
総領事:総領事館の一丁目一番地の仕事はまずは領事業務です。ネバダ州には日本人の方が約4000人、日系人の方が2万7000人ほどいらっしゃると伺っています。皆様の安全安心の確保を第一に心がけていきたいと思っています。また、日系企業が80社くらい進出されていると伺っています。今はコロナでなかなか厳しいところもありますが、是非ポストコロナを見据えて、日米の経済関係の強化のため、微力ではありますが、力になれればと思っています。日本とネバダの関係もポストコロナを見据えて、さらに強化していきたいと思います。今回の秋祭りでも日本好きという方がたくさんいらっしゃるようにお見受けします。嬉しい限りですけれども、私自身はさらに日本好きな人を増やしていきたいと思います。ちょっと大胆ですが、親日家の人数を倍にする意気込みで、親日家倍増計画を掲げておりますので、努力していきます。
▶︎親日家倍増計画?はい!是非とも!
総領事:あと、ネバダの関係で、私が一つ驚きましたのは、日本との姉妹都市関係が一つもないということです。カリフォルニアには100くらいあるのですが、ネバダは一つもない。私の任期中に一組でもできたらな、と思っています。
▶︎それは涙が出るくらい嬉しいお言葉です!姉妹都市がないというのはほんとにその通りで。過去に話が持ち上がったこともあるらしいのですが、カジノがあるということでなかなかうまくいかなったらしいです。以前宇山総領事(当時)とお話した時に、姉妹都市というのは、草の根運動で、地元の人と繋がって、次の世代に引き継いで、と時間をかけて発展するものと聞きました。総領事から前向きなお言葉を聞けるのはとても嬉しいです。
総領事:簡単ではないと思いますが、ネバダとの関係強化に努めて参ります。
▶︎ラスベガスへの領事出張サービスの再開の見通しは如何ですか?
総領事:当館としては、新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ、会場が確保できれば、来年1月~2月にかけラスベガスへの領事出張サービスを再開させたいと考えています。なお、詳細については事前に当館ホームページ等でお知らせします。
▶︎在ロサンゼルス日本国総領事館での各種申請・受取は可能ですか?
総領事:ネバダ州は当館の管轄となりますので、原則として当館にて申請・受取を行って頂きますが、特殊事情等により、ネバダ州在住の方々が在ロサンゼルス日本国総領事館またはその他の公館にて各種申請と共に受取を行うことは可能です。但し、当館の領事出張サービスの際に申請頂いた場合には、当館でのお受け取りになりますので、ご注意ください。
▶︎ありがとうございます。川村総領事が常日頃、大切にされていることはなんでしょうか?
手品から学んだことですけど、何もないところから、何かを生み出す喜び。これを大切にしています。最初に見た手品が、何もないところから、鳩を出したり、シルクを出したり。それをみて素晴らしいなと思いました。何もないところから何かを作る喜びというのは、別に手品の世界だけではなくて、実生活、社会に入っても、やはり大事なことだと思っていまして、仕事を始めてから、いろいろ新しいことにチャレンジをして、新しいものを作り出していくよう心がけていく、ということを私自身大切にしています。
もう一つは自分に限界を設けないこと。これはだめだ、不可能だと思ってしまうと、もうそこで止まってしまいます。そうではなく、いやいやまだまだできるんだと自分自身に言い聞かせて、限界を設けない。不可能は決して不可能じゃない、可能なんだ、と思うようにしています。これも実は手品から来ているんです。「」という丸を四角にするもので、ここに丸い輪っかがあります。1、2、3で丸い輪っかを四角に変えるという手品です。もともとというのは、数学的に円と同じ面積の四角ができないということから、「難しい。」という意味なのですが、手品では可能になる。あれが好きで、社会生活の中でも限界を設けないように努めています。
▶︎サンフランシスコ総領事館が設置される酒パビリオンについてコメントをお願いします。
総領事:こちらに着任して驚いたのはお酒の人気です。同僚に聞きますと、ここのところ、お酒がますます受け入れられていて、今、アメリカに対する日本の農産物の輸出量のナンバーワンがお酒類になっています。過去10年でお酒類の輸出額というのは3倍にまで伸びています。一方で、ワインに比べるとまだまだマーケットのシェアは大きくない。逆に考えれば、それだけまだ伸びしろがあり、どんどん伸びていけるかなと思っています。もっと様々な方々にお酒を知ってもらいたいと思います。
秋祭りの酒パビリオンには40種類以上のお酒が用意されており、フルーティなお酒やスパークリング酒とかは食前酒にも使って頂けると思います。また、新しいコンビネーションも重要で、パスタやステーキ、チーズと一緒に飲んで頂くのも良いと思います。
▶︎はい、昔からあるお酒のイメージとはずいぶんちがうと思います。あと、女性が好んで飲まれます。冷やしたをおしゃれなグラスで飲む。お酒に限界を画さないというところでしょうか。
総領事:是非とも女性や若い方々にも更にお酒の魅力をお伝えしたいと思っています。本日の酒パビリオンにも沢山の方に来て頂きたいと思っています。
▶︎今日は色々なお話をお聞かせいただいてありがとうございました。親日家倍増計画、姉妹都市関係の進展を期待しております。 (Text: Noriko Carroll)
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